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ピックアッププレイヤー 2024-vol.08 / バフェティンビ ゴミス

バフェと過ごした405日間

テキスト/高澤真輝 写真:大堀 優(オフィシャル)text by Takasawa Shinki photo by Ohori Suguru (Official)

「日本に来ることができて幸せですし興奮しています。フロンターレでプレーできる喜びに満ち溢れています」

2023年8月20日の加入会見。開口一番にそう語って始まったフロンターレとの歩み。昨季の天皇杯優勝、等々力でのハットトリック、チームメイトたちに与えた影響…。これは私たちとバフェ(バフェティンビ ゴミス)がフロンターレで共有した405日の記憶である。

新たなチャレンジ

 欧州、アジアで活躍したストライカーの加入。そのインパクトは絶大だった。

 プロキャリアをASサンテティエンヌでスタートさせてから欧州クラブを中心に渡り歩いて得点を量産。そんな欧州サッカーの最前線で戦ってきたなかで新天地に選んだ場所がフロンターレだった。

「私にとって日本に来るのは非常に興味深い出来事の1つでした。今まで生活していた国とは違う文化や生活のなかでプレーするのは新たなことを学べるチャンスでもあります。それに私は今まで慣れ親しんだ環境に居続けるのではなくてチャレンジをし続けるマインドでプレーしてきたので今回の選択をしました」

 世界的な選手ではあるが決してエゴイスティックさを前面に出すのではなく、周りをリスペクトして真摯な姿勢でトレーニングに励む姿はプロフェッショナルそのもの。なによりもチームのために一緒の目標に向かって「自分も一緒にフロンターレで新しい歴史を作るんだ」というパッションも強く感じた。

 また技術面を見てもハイレベルでボールをキープする体の使い方やシュートの上手さは一級品。それは脇坂泰斗が舌を巻くほどだった。

「常にバフェは判断を焦らない。そういうFWはあまり見たことがなかったです。ストライカーの目的がゴールなのはみんな一緒だけど、例えば目の前に獲物がいたとしてもすぐに飛びつかないのがバフェ。最後の最後まで駆け引きをして確実に仕留めるための術をたくさんもっているんです。だからゴールを奪うためならパスもするし、GKをかわしてシュートも打てるから得点確率を極限まで上げられる。あとボレーがめっちゃ上手い。よく滞空時間が長いボールは待ちきれず先に足を出してしまい力が伝わらないときもあるけど、ちゃんとミートのタイミングまで待てる。本当にバフェはすごい選手です」

 ただ、その力を公式戦の場で存分に発揮するまでには新しい環境に来た影響もあり時間を要することになった。

「今までプレーしてきたクラブでは新しく加わって順応するのにそれほど難しさはなかったのですが、フロンターレにはしっかりとしたフィロソフィーがあります。なので、すべての選手がフロンターレにフィットできるわけではありません。だからもっとフロンターレのことを学び、吸収していかなければいけないと思っています」

 加入初年度の公式戦出場は15試合。天皇杯決勝ではタイトル獲得に貢献したもののゴールという結果を残す活躍は見せられず。迎えた今シーズンの序盤戦もなかなかコンディションが上がらなかったことから出場機会も限られていった。

 当然ストライカーとして得点も奪えてない現状に歯がゆさも感じていただろう。ただ前を向いて地道に自分の状態を上げながらフロンターレのフィロソフィーを理解し勝利に貢献するためのトレーニングを続けていった。

「欧州にいた頃はフィジカルコーチやパーソナルトレーナーととにかくハードワークし続けていました。そのなかで私がフロンターレに来たのは、今までハードワークしてきたことに加えて新しいものを取り入れたかったからです。新しい環境に来たことで順応するまでの苦労がありましたし、自分がチームの勝利に貢献できない現状もありました。それでも自分の持っているものを100%出すために試合の映像を見返して、チームメイトと話して確認したり、コーチングスタッフも私に力を貸してくれました。本当に周りに支えられているおかげで今の自分がいるんです」

バフェティンビ ゴミス バフェティンビ ゴミス

衝撃のハットトリック

 J1リーグ第13節札幌戦。その努力がようやく報われた。30分、遠野大弥の縦パスを受けるとDFを背負った状態から巧みに反転して強烈なシュートを叩き込む。これがフロンターレ初ゴールとなりバフェは力強く咆哮した。さらに43分には遠野とのコンビネーションから最後はバフェが決めて2点目。等々力がライオンパフォーマンスに沸き、仕上げは45+3分、PKを技ありチップキックで決めてハットトリックを達成。61分に途中交代となった際にはサポーターから活躍を称える大きな拍手に等々力が包みこまれた。

「来日して初めてのゴールは率直に嬉しいです。チームメイト、監督、コーチングスタッフ、そしてサポーターの皆さんに感謝の気持ちを伝えたいです。自分を支えてくれた方たちが辛抱強くサポートしてくれたおかげでこうしてゴールを決めることができました。ゴールを決められない時期も続きましたが、ネバーギブアップの精神を見せられたと思うし、自分のことをサポートしてくれたたくさんの方々と幸せな時間を共有がでたからこその結果です」

 この試合後からFWとして存在感を放つゲームも多くなっていき、次第にフロンターレのスタイルのなかで躍動した。

「このクラブにはたくさんの年月を重ねて培ってきた素晴らしいものがあるからこそ、ファミリーのような空気感が築き上げられ、タイトルを獲得できるクラブに成長していきました。だから新しい選手が本当のファミリーになるためには、完成された選手でなければいけません。ピッチ上でスキルを発揮してテクニカルな技術を見せる必要もありますが、それだけではなくてフロンターレの選手は謙虚で学ぶ姿勢を持ち続ける素晴らしい人間性をもっていなければいけない。そんな素晴らしいクラブの一員になり、徐々にフィットすることができているのは嬉しいです」

 一方でチームは今シーズン思うように勝点を重ねられず何度も悔しい経験をした。それでもバフェは自分が得点を取って勝たせるというメンタリティも持ちながら、フロンターレならば巻き返していけると信じ続けた。

「ゴールを決めるために周りのチームメイトを理解することが大切だし、フロンターレのフィロソフィーを体現しなければいけません。ただ、結果が付いてこないときは少し自信を失っているところも見受けられました。でも私はフロンターレの力を信じています。今は順位を見ると難しい状況に見られるかもしれないですが、絶対に自信を取り戻せるキッカケはある。それに得点を取るのは私でなくてもいいんです。エリソン、シン(山田新)、ユウ(小林悠)と素晴らしいフォワード、ダイヤ(遠野大弥)、アキ(家長昭博)、ヤス(脇坂泰斗)など非常にクオリティの高い選手もいます。そのうちの誰が得点を取ってもチームの勝利に繋がれば喜ばしいことです」

 加えてバフェは逆境に立たされても跳ね除けられる力があるとクラブの歴史からも学んでいた。

「たとえ0-3で負けていたとしても最後まで諦めない。それが日本人、フロンターレの精神です。欧州では0-3で負けていれば次のゲームで頑張ろうと気持ちを切り替えるチームもありますが、フロンターレなら0-3から同点に追い付くことができる。それはクラブの歴史を振り返っても、ユウ、アキが最後まで諦めないメンタリティを見せていけば勝利できると証明してきましたから」

 そんなフロンターレにとって最も大きな存在となっていたのは鬼木達監督だ。8年間で7回のトロフィーを手にした指揮官のもとでプレーできているからこそ自信をもって戦うことができた。

「鬼木監督はたくさんのタイトルを獲り、Jリーグで勝つために何が必要なのかを理解している方です。今のチーム状況としては怪我人が出たり無駄な失点、不運なアクシデントなど様々なことが起こって難しさもあると思います。私は今までチャンピオンズリーグで優勝経験のあるチームと対戦するなどビッグクラブを間近で見てきましたが、そういったチームに比べてもフロンターレはゲームをコントロールして戦えている面が多くあります。そんなチームを作り上げた鬼木監督は素晴らしい力をもっています。だからこそ我々は自信をもって戦わなければいけないんです」

決断と彼が残したもの

 ただ札幌戦以降は自身もゴールを奪うことはできず徐々に出場機会も減少。チームも思うように勝点を重ねることができなかった。それでもバフェは必死にプレーを続けてきたがクラブに自分の思いや今後について話し合いをした末にシーズン途中の9月に退団する決断をした。

「私は日本での生活に満足していました。契約は12月までありましたが、欧州は日本と違い9月末から新生活がスタートします。そういったことや家庭の事情を考慮し、クラブと相談して契約解除する決断をしました。一言では表すことができないですが、自分がフロンターレに来ると決めた選択はベストだったと思っています」

 そのなかで若手選手に成長してほしい思いの強さも決断理由の1つに挙げていた。

「自分自身チームに100%貢献し切れていない歯がゆさを感じていたと同時にシン、ソウマ(神田奏真)といった若い選手が育って川崎フロンターレの将来を担う選手たちがこれからは引っ張っていってほしい思いもありました」

「特にシンは現在チームを引っ張っている選手の1人です。技術だけでなく彼がもっている強いパーソナリティ、強い個性、リーダーシップを前面に出していくべきです。もちろん日本では謙虚な姿勢が求められるのは素晴らしいことですが、サッカーの世界では必ずしもそうとは限らない。強いパーソナリティと強いキャラクターを前面に出さなければやられてしまう場面だってあります。だからこそシンには自分がもっている強い姿勢を前面に出していってほしい。そうすれば必ず成長につながりますし、他の選手にもいい影響を及ぼすような存在になれると思っています」

「ソウマも才能のある選手です。彼が毎日成長を続けている姿を見てきましたし、それは私の決断にもつながった部分でもあります。自分の出場時間は短かったですが、その短い出場時間はソウマのような選手が得てチームに還元していくべきだと思っています。ソウマはハードワークして力をつけていますし、何よりも情熱をもっている。毎日全体練習が終わったあとに残って、成長のための練習を続けています。いまは出場機会に恵まれていないですが必ずチャンスは来ると信じてほしい。ハードワークをやめずに結果を出した選手の手本になってほしいですし、いつかソウマが重要な場面でゴールを決めてくれるときが来るのを私は信じています」

 そう期待を寄せた山田と神田はバフェからストライカーとして必要なものを学び、山田はプロ2年目でリーグ戦16ゴールを挙げるまでに成長。神田はACLEリーグステージMD4の上海海港戦で初のメンバー入りを果たすなど着実にレベルを上げている。

「バフェから欧州のストライカーがどういうものなのかを教わりました。ストライカーとしての佇まい、ゴールの取り方など細かいところから教えてくれましたし、チームとして様々なことが求められるけど最後はゴール前でエネルギーを使えるようにしなければいけないということも学びました。プライベートを含めてかわいがってくれていたので寂しい思いもありますが、彼は寂しい別れではないと言っていました。また一緒に仕事ができるように頑張っていきたいです」(山田)

「FWとして、どう得点を取るかを教わることができました。よくバフェからはストライカーは点を取れる位置にいなければいけないと言われていましたし、改めてゴールにこだわる大切さを学びました。バフェが僕のことを期待してくれていると聞いて嬉しかったし、その期待に応えられるように頑張っていきたいです」(神田)

 正直な話をすれば、もっとバフェのプレーを見たかったし、もっと一緒に戦いたかった。でもバフェがフロンターレに残してくれたものも数多くあると鬼木監督は言う。

「日本に来るタイミングでフロンターレを選んでくれたことに感謝しています。彼は日本人、環境、文化にリスペクトをもってくれていましたし、そういった姿勢が彼へのリスペクトになっていたと思います。またチームにクオリティの重要性も残してくれました。本人のなかでは試合のパフォーマンスを上げたい思いもあったかもしれませんがパッション、リスペクト、クオリティを出してくれました。このタイミングでの退団は残念ですが、彼がクラブに残してくれたものは大きいと思っています」

 その思いは全員が同じ。顔を合わせる最後の日となった9月27日(金)J1第32節新潟戦後に等々力でサポーターに挨拶をする際には選手たちが花道を作ってピッチに送り出した。1人ひとりがスピーカー越しに聞こえてくるバフェの一言一言に耳を傾けていたように、誰もがバフェのプロとしての振る舞いや技術を学び、1人の人間としてリスペクトをしていた。

「フロンターレファミリーの一員にさせていただき本当にありがとうございます。私が加入してから今日まで1日も欠かさずサポーターの皆さんが私に愛を伝えてくれましたし、熱いサポートを感じることができました。私は選手としてフロンターレを離れますが欧州に帰ってもフロンターレのことを愛し続けます。心の底から感謝を伝えたいです。私は皆さんの愛に恵まれていましたし、そのおかげで前に進むことができました。ありがとうございました。そして最後に。チームメイトのみんな、自分を最後まで支えてくれてありがとう」

かけがえのない時間

 現地時間11月10日(日)、バフェは在籍経験のある2チームが対戦するリーグ・アンのオリンピック・リヨンvs ASサンテティエンヌで現役引退を発表した。

 フランス南部のマルセイユで育ち、物心がつく前からボールに触れ始め14歳のときに親元を離れてサンテティエンヌの育成組織に加入してトップチーム昇格。その後、欧州やアジアと数々の功績を残して世界中のファンから愛されるサッカー選手となった。そんなバフェが歩んだプロキャリア21年間のうちフロンターレで過ごした現役生活最後の405日間はかけがえないのない時間だった。

 以前、インタビュー中にバフェは日本、フロンターレの未来について語っていたことがある。

「日本は謙虚な国ですから、その謙虚な姿勢はどんなときももち続けてほしいです。たとえ高い技術を持っていても、より多く日本から世界で活躍する選手が出てくるようになるには日本人らしい謙虚さがとても大事になってきます。日本の育成年代を見ても各クラブのスタッフはいい仕事をしていますし、素晴らしい環境があります。だから今後、若い世代の選手たちから欧州で活躍するような選手が生まれていくのが楽しみです。またフロンターレにもシン、コウタ(高井幸大)、ケント(橘田健人)といった若くて才能豊かな選手たちがいます。私としては彼らが欧州でも活躍できる力をもっていると感じますし、彼が成長していくために色んな面でサポートをしていきたい思いもあります。そして、いつか彼らが得たものが次の世代に受け継がれ、新しい才能をもった選手がどんどん現れていく。そういったものをフロンターレで見られるのが楽しみにしています」

 これでフロンターレとバフェの関係が途絶えるわけではない。また違う形でともに歩みを進める将来が待っているはずだ。

バフェ、フロンターレを来てくれてありがとう。
21年間、お疲れ様でした。
また、いつか会えるのを楽しみにしています。

Thank you, Bafé, for coming to Frontale.
Thank you for your hard work over the past 21 years.
Let's meet again someday.

profile
[ばふぇてぃんび ごみす]

2023年8月にトルコの名門、ガラタサライから加入した超大型FW。得点感覚に優れた経験豊富なストライカーは、欧州を中心に世界各国のリーグで得点を積み重ねてきた。元フランス代表でもあり、国際経験も豊富。強靭なフィジカルと高いレベルのシュートテクニックでサポーターを魅了してきた。2024年11月10日(日)現役引退を発表。

1985年8月6日、フランス ラ・セーヌ=シュル=メール生まれニックネーム:バフェ、ライオン

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