来る6月20日(土)に開催されるJ1リーグ1stステージ第16節・松本山雅FC戦では、フロンターレのマスコット「カブレラ」を祝う「カブの日」イベントが予定されています。「カブ=株」ということで、株投資を楽しく学べる「株ライフゾーン」が登場。週刊モーニングで大好評連載中の株投資マンガ『インベスターZ』とのコラボも注目です! 今回のピックアッププレイヤーでは、『インベスターZ』をはじめ、『ドラゴン桜』『砂の栄冠』など数々のヒット作の産み出したマンガ家・三田紀房先生と中村憲剛選手とのスペシャル対談をお送りします。領域は違えど、プロとしての継続の秘訣には共通点も…
こちらから『インベスターZ』1〜3巻(電子版)が今すぐ試し読み&購入できます!
──最初に、サッカークラブから株のイベント企画でオファーが来て、三田先生はどんな感想を持ったのかをうかがいたいのですが。
三田紀房(以下:三):まずね…「カブの日」というのがよくわからなかった(笑)
中村憲剛(以下:中):そうですよね!!(笑)
三:証券会社のイベントで呼ばれるのならわかるけど、「なんでサッカークラブなんだろう…?」って思いました。
中:本当にすみません!
三:いやいや、こういう意外性が大事なんですよ。私は漫画作りのコツをよく聞かれるのですが、「サプライズをどうやって作るか」と答えています。面白いことには必ずサプライズ、驚きがありますから。自分が考えつかないこと、意表を突かれたときが一番面白い。
中:なるほど、意外性なんですね。
三:『インベスターZ』という漫画は、投資の話です。「主人公を誰にするか」と考えたときに、投資から一番かけ離れている存在が子どもじゃないかと思ったんですね。「子どもが3,000億円を使って組織を運営している」と聞くと、「えっ?」って思いますよね。そういう意外性が大事なんです。株とサッカークラブの結びつきも、意外性を打ち出していて、とても良い企画だと思いましたよ。
中:ありがとうございます。天野さん(天野春果プロモーション部長)、よかったね(笑)。実は昨年末に天野さんから電話が来て、「ケンゴ、カブだから『インベスターZ』の三田先生と対談するよ!」と言われて、最初は「はっ?」と思いました。でも僕自身、三田先生のファンでもありましたし、カブの日にこじつけて対談ができて嬉しいです。企画に理解のある先生と編集者さんたちでよかったです。
──中村憲剛選手は『インベスターZ』も『砂の栄冠』も全巻持っているそうですね。
中:はい。今回の対談前に『インベスターZ』を読み直してみたのですが、毎回「あっ」と思わせる仕掛けがありますよね。大ざっぱなストーリーは考えているとは思うんですけど、話を考えて下書きして絵にして出す…それを1週間でやる。しかもその真剣勝負を、先生は2本同時にやっている! それが本当に凄いと思ってます。
三:まず漫画家にとって週刊誌で連載をするというのは、第一線の漫画家であり続けることなんです。日本のサッカーでいえば、J1リーグでプレーすることに似ているかもしれませんね。第一線の漫画家と言われるためには、週刊誌で連載すること。なおかつ大事なのは、週刊誌で休まずに描くこと。週刊誌でたまにしか描かないという人も中にはいますから(笑)。コンスタントに毎週きちんと描き続ける。自分が漫画界にいるというポジションをキープするためには大切なことなんです。
中:週刊連載で描き続けることは、かなりハードなんですよね。
三:みなさんが思っているほど大変ではないですよ。私は経験から効率化できてますし、効率化することで自分のスタミナもうまく保ち続けてます。
中:僕らが毎日「よく走ってられますね」と言われているようなものなのかな…仕事だし、それが当たり前になっている。それに毎週試合があるので、経験を積んでいくと効率化できるようになったりしますからね。もしかしたら、先生はがむしゃらにやっているのではないかと思ってましたが、違うんですね。
三:逆です。がむしゃらにやらない。頑張らないのが私の基本です。例えば、自分は徹夜を一切しないんですよ。
中:えっ、本当ですか? 何かきっかけがあったんですか。
三:昔は、徹夜をしていましたよ。漫画家は徹夜をするものという常識があったし、漫画は徹夜して作るものだったから、何の疑いもなく徹夜をしていました。でもあるときから、徹夜をしないで作ってみようと思ったんです。そうしたら、内容も雑誌のアンケート結果もそんなに変わらなかった(笑)。
中:それだったら、徹夜しない方がいいですよね。
三:徹夜しないで作った作品でアンケート結果がグンと落ちたら違ったんでしょうけど、あまり変わらなかった。それなら徹夜しないで描き上げる方が良いし、そのやり方でやろうと思って効率的な仕事の仕組みをどんどん作っていったんです。
中:先生とは全然レベルが違いますけど、僕は学生時代に徹夜で勉強をしたことがなかったので、少しわかります。集中が続かないし、徹夜しない方がメリハリはつく気がします。
三:そう。徹夜をするときに何をしていたかというと、おしゃべりしたり、何か食べていたり、休憩時間をたくさん取って過ごしている(笑)。それに徹夜するものだと思うと、スタッフも最初から徹夜モードになっているんですよ。でも、早く帰ろうと最初から思っておくと、効率が全然違う。
中:先生の話を聞いて、自分のプレーに置き換えてみたら、スッと理解できました。今年からJリーグが試合中に走る距離を数値で出すようになったんですよ。昔は、がむしゃらにやっていたんですけど、最近はポジショニングを工夫すれば、走る距離は半分ぐらいで良いんじゃないかと思っていて…。
三:結果的に点を取って試合に勝てば、誰も文句言わないでしょ?
中:そうなんですけど、ただ日本の場合は、頑張って走った人に感情移入をするというか、たくさん走った選手を評価したがる傾向はありますね。
三:でも、そんなに走らなくていいんじゃないか、って気づいてるわけですから素晴らしいと思いますよ。効率化して、時間を調整すれば、こうやって楽しい対談もできる(笑)。
中:そうですよね(笑)。
──『インベスターZ』の最初に、100億円を運用することにプレッシャーを感じている主人公の財前が、「ゲームだと思ってやれ」と言われる話がありますよね。三田先生ならば毎回人気投票があったり、憲剛選手ならば試合の勝ち負けがあります。結果に対するプレッシャーについて、お二人の考えはいかがですか。
三:自分にはあまり感じないようにしています。連載を始めてからの5週、10週でプレッシャーがあるぐらいですね。漫画は結果が出るのが早いので、2話目、3週目のアンケートで人気が出ないと打ち切られてしまいますから。漫画は立ち上げも早いけど、撤退も早いんです。10週目までにこの漫画はいけそうだなという結果を出さないといけない。その間は多少のプレッシャーですね。私たちはファンと接する機会はあまりないないですから、周囲からのプレッシャーを感じることはありません。サッカーの場合は…。
中:たくさんの人に見られてますからね。ただ試合よりも、その前のほうが緊張するかもしれないです。何万人というお客さんがいることもありますが、一回スタジアムに入ってしまえば、ボールと相手と味方の世界ですし、キックオフの笛が鳴れば気にならないです。それに多少はプレッシャーがあったほうが良いと思ってます。適度なプレッシャーと適度なリラックス状態になるように意識してきました。先生が仕事を効率化するのも試行錯誤があったんですよね。
三:そうですね。漫画ってどうしても人手はいるんですよ。一つの作品に、だいたい5人はスタッフが必要になる。『砂の栄冠』で5人、『インベスターZ』で5人。つまり10人です。
中:それは、先生の右腕的な存在ってことですよね。
三:もちろん。素人を集めてもダメですから(笑)。そのときに信頼している編集者から「デジタルで漫画を作ってみませんか」と言われたんです。そういう会社があると教えてもらいました。
中:デジタルってどういうことなんですか?
三:簡単にいうと、キャラクターは描いているけど、背景であったり、最終的な仕上げを外注で仕上げるということですね。
中:そんなことができるんだ。漫画家の先生で、他にそういう方はいるんですか。
三:途中まで手で描いて、後からデジタルで仕上げという方はいますけど、最初からデジタルで処理する人は、まずいないと思います。
中:やっぱりパイオニアなんですね。でも、そのおかげで僕らは、『インベスターZ』と『砂の栄冠』の両方が同時に読める…そうだったんですね。謎が解けました!
三:砂の栄冠を連載している間にインベスターZのアイディアを思いついたのですが、漫画界の常識からいえば、砂の栄冠を終えてから描きますよね。でも、いま描かないといけないと思った。自分が考えたことを人にやられると悔しいんですよ。投資や株の話を最初に自分が描きたかった。
中:まさにファーストペンギンですね!
三:そう! 最初に飛び込まないと一番に食べられない。誰かにお花畑を作られて、そこに縄張りを作られたくない(笑)。考えているだけでは何も生まれないですから。
中:なるほど。まずやってみるのが大事なんですね。
三:だから今回の企画も、思い切って電話してきた天野さんの行動力は素晴らしかったと思います!
中:天野さん、行動力だけはすごいからね(笑)。これをきっかけに、株に興味を持ってくれた人がサッカーを観てくれても良いし、サッカーを観ている人が、株に興味を持ってもらえるとうれしいですね。
三:どういう機会でどういう自分を知ってもらえるか。あるいは作品を手に取ってもらえるか。そこは、なかなか自分ではコントロールできないですから。でもコントロールできないからといって引っ込んでいてはいけない。結びつくかどうかはわからないけど、やれることはやってみる。それが大事だと思いますよ。これもひとつの縁だし、これをきっかけに私はフロンターレのことを応援しますよ!
中:ありがとうございます!!
──三田先生は、サッカーとの関わりってどのぐらいあるんですか。
三:野球の漫画を描いているので、野球関係の方と対談することは多いですが、サッカー選手は初めてかもしれません。
中:じゃあ、僕が初めてなんですね。
三:生まれて初めてサッカーを観たのが、2006年のドイツワールドカップでした。オランダ対アルゼンチンです。
中:…えっ、ドイツまで行ったんですか?
三:行きました!
中:すごい!
三:集英社の雑誌から家にFAXが送られて来て、「ドイツW杯にいきませんか?」と書いてあったんですよ。何かの冗談だろうと思ってましたが、とりあえず電話をかけてみたら「観戦して漫画をカラー4ページで描いて欲しい」という依頼でした。それで現地に行ってオランダ対アルゼンチン、日本対ブラジルの2試合を観ましたよ。
中:日本は1対4でブラジルに負けた試合ですね。
三:そう。最初、玉田圭司のゴールで「うわーー!」ってなったけど、その後はシュンってなった(笑)。試合後は、中田英寿が寝転んでいました。面白かったですよ、初めてのサッカー観戦。
──ドイツの街の盛り上がりも凄かったのでは?
三:一番印象的だったのが、ホテルでテレビをつけたら何かしらのサッカーの番組をやっていたことですね。しかも、みんな難しそうな顔をして議論をしている。日本だとタレントが出て来て、ユニフォームを着てお祭り騒ぎになっている番組が多いと思うですけど、ドイツは生真面目な番組ばかり。お国柄が違いますね。
中:歴史も違いますからね。日本は、お祭りになりますから。
三:あとオランダのサポーターがすごかった。オランダ人はでかくて、みんな190㎝、100kgぐらいの体格で、タトゥーが入っている連中が電車にたくさん乗ってくるから、怖い怖い(笑)。しかも乗車マナーがめちゃくちゃ。こっちは指定席の券を持っているのに、平気で座って来る。
中:強烈ですね。日本では考えられないかも…。
三:試合中に、相手とぶつかったときに向こうの選手が「ワー!」ってなんか言ってきますね。あの言葉ってどんな感じなんですか?
中:こっちは日本語です(笑)。お互いに何か言ってるんでしょうけど。
三:英語ではない?
中:英語と日本語、半分半分ぐらいですね。「デンジャラス!」とかそのぐらい。「あぶないだろ」って(爆笑)
三:あと不思議なのは、個人の選手、試合中、相手の誰が誰だかわからなくなることは?
中:…え?どういうことですか?
三:いや、自分がマークしなくてはいけない選手が誰かわからなくなったりするとか。
中:それは大丈夫ですね。背番号でわかりますから。
三:なるほど! 背番号が重要なんですね! テレビだと、引いた画面で観ているので、わからなくなるので…。
中:背も違いますからね。でもそういうところが不思議に感じるんですね。小さい頃からずっとサッカーをやっているので、考えたこともなかったです。
──憲剛選手は「インベスターZ」で印象的なシーンや好きなセリフは何かありますか。
中:8巻にホリエモン(堀江貴文)さんが出てきましたよね。「プレゼンするやつは言い訳ばっかりしてやらない。成功するやつは、やるやつだ。やってみてダメだったらまたやればいい」みたいなことを言っていたのは印象でした。自分もいろんなトライをしてきたほうなので、やはり成功するためにはやらないと始まらないんだと。
三:ホリエモンの書籍を担当しているスタッフがいて、ポロッと言った言葉が良い言葉だったりするんですよ。例えば、「美人の隣に座れるのは、告白したやつだけだ」とかね。なるほど。ホリエモンって良いことと言うな。確かに、思いを伝えない限りは永遠に美女の隣には座れない。
中:しかも、その絵の男がまぁまぁブサイクなんですよね(笑)。先生の、そういう細かいところが好きなんですよ。「こいつ、頑張ったんだろうなぁ」って思います。
三:言われても、なかなか出来ないのが人間ですから。でもやった人は成功の切符だけは手にしている。切符を手にしない限り、永遠に電車には乗れないですから。まず切符を買うことが大事なんですよ。
中:なるほど。最初は株から始まったんですけど、だんだん人生観のような漫画になってますよね。自分も34年生きてきているから、自分の考えや生きていく考え方それに照らし合わせて読めるのが良いですね。たぶん20歳の子が読むとまた別の感想があるはず。
三:そうですね。一緒に人生を考えていく漫画にしないと大きなマーケットに広がらなかったり、ビッグヒットにはならないんですよ。
中:最初はミステリーの要素もありますよね。財前の名前に学校のオーナーである藤田家の当主がピクッとなったり、伏線があって気になります。
三:そういうのは、後から考えるんですよ。
中:えっ、後付けなんですか!!
三:最初から考えておくと、人間ってそれをすぐに描きたくなってしまいますから。謎とか仕掛けは、フックだけつけておいて後から描くんです。編集者からも漫画をみて「これ、何ですか?」と聞かれるんだけど、「後から考えるわ」って答えてます(笑)。後から出して、いかにも考えていた風にしておくんです。サッカーもそうじゃないですか。前半にこうしておいて、後半はその裏をかくプレーをしてみたり。
中:はい。それをいつも考えるポジションなので(笑)。仕掛けるときの組み立ては似てますね。1発目はこれを出して、2手目は出す振りをして、違うところに出す。そういう風にしてます。
──話はつきませんが、そろそろお時間になりました。
中:今日は楽しいお話をありがとうございました。漫画家の先生がここに足を運んで対談してくれるなんてありえないですよ。僕の知っている先生方はすごく忙しそうなので…。
三:今は漫画界も厳しいですから。机に座って漫画だけ描いていれば良いという人も、もちろんいます。でも外に出ていろんなコラボレーションをして、作品を読者に知ってもらう努力をしないといけない時代にきていると私は思ってます。
中:僕もまったく同じことを思っているんですよ。サッカー選手もピッチでボールを蹴るだけじゃいけない時代に来ている。いろんな媒体に出て、自分たちを知ってもらう…漫画なら読んでもらう、サッカーならスタジアムに来てもらう。そうやっていくことが大事ですよね。
三田紀房先生オフィシャルサイト:http://mitanorifusa.cork.mu
サービス提供:マグネットPUBLISHING