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ピックアッププレイヤー

2009/vol.06

〜MF26/村上和弘選手〜

ピックアッププレイヤー:MF26/Murakami,Kazuhiro

「今年も去年も最初は全然ポジションはなかった。ただ、だからといって全然腐る気にはなれなかった。逆に出番が来たときになんかやってやろうと思っていました」。不動のレギュラーという立ち位置にいない自分自身を認識した上での言葉というよりは、それが彼本来の性格なのである。

村上和弘の精神性

1 先発メンバーを4選手入れ替え4ゴールを叩き込んだ8節の京都戦は、フロンターレの選手層の厚みを証明しているといえる。エースストライカーはもちろん、キャプテンでさえも先発落ちを経験するほどの激しいチーム内競争が日々選手たちを鍛えている。

 メンバー入りするには力が足りず、活躍の場を与えられない選手は、時としてクサるという精神状態に追い込まれることも少なくない。しかし村上和弘は、クサってる暇があるならサッカーに取り組みたいという。「今年も去年も最初は全然ポジションはなかった。ただ、だからといって全然腐る気にはなれなかった。逆に出番が来たときになんかやってやろうと思っていました」。不動のレギュラーという立ち位置にいない自分自身を認識した上での言葉というよりは、それが彼本来の性格なのである。

 そんな村上はプロとしてがんばるのは当たり前で、それをいかに常にやり続けられるのかを大事にしているという。「常に勝ちたい。負けたくない」という気持ちを持っている村上の、その精神性にマッチしたのがドゥンガの生き方だった。

「外国人ではドゥンガが好きでした。戦う気持ちを前面に出していたし、それがあからさまに伝わってくるような選手ってほとんどいない。『なんでそこまで戦えるんだろう』と不思議に感じるくらいに闘争心むき出しでサッカーをやっている。オレも気持ちの部分というのはすごい昔から大事にしていたからなおさらの事好きになったのかもしれません」

 当たり前にがんばって、それを常に維持する事を目標とする。そうやって常に100%で戦うことがプレーの精度につながる。「明らかにやる気のないような姿を見るのも嫌いだし、もちろんするのも嫌いだし」という村上は、戦う姿勢をチームメイトにも求めている。もしチーム全体がその意識を共有し、それぞれの選手がそのポジションで与えられた仕事に対して完璧を目指す事ができればそのチームは強くなる。単純なことだが難しい事でもある。そんなメンタリティをドゥンガに影響されて身に付けたとすると、プレー面で影響を受けたのが同年代の稲本(潤一:フランクフルト)だったという。

「目標という訳ではないんですが、稲本が高校生のときからガンバで試合に出ていて、ボランチなのにすごい点を取る。今の谷口みたいなイメージなんですが、守備もしっかりしつつ、ゴール前に顔を出して点を取る。それはすごいなと思っていました。だからなのか、高校時代はゴールに対する意識はすごく高かったです。執着がありましたね」

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盟友、森勇介

 以前、森勇介に村上和弘について聞いたとき「オレはあいつはボランチで生きる選手だと思う。シュートもものすごくうまいしね」と話していた事があった。それを村上に伝えると「たぶん勇介は、オレの若いころのイメージを持ってくれてるんですよね。おれ仙台でボランチをやっていたころめちゃくちゃ点を取ってたんですよ。練習試合で5点取ったとか普通にありますしね」と苦笑いしていた。

6 点が取れるボランチ。まさに稲本である。目標としていた選手のスタイルの一部を体現していた仙台時代に身に付けた能力があるのだという。それがいわゆる「3人目の動き」である。

「仙台時代はどんどん裏に飛び出していくというのがあった。長い距離を走るのも嫌いじゃないですしね。ボランチのポジションからある程度いいタイミングで飛び出せると絶対にフリーになる。そういう部分では、オレは3人目で飛び出すタイミングは結構持っていると思うんですよね」

 3人目の動きとは、チームメイトとの連動性によって実現するものであり、それはつまるところパスワークの結果として完成する局面の打開である。前の選手にクサビが入ったときに連動する動きのイメージが膨らむという村上は、その特性がサイドバックでのプレーにも生きているという。そしてそれが彼自身のスタイルに合致したものである事を正確に理解してもいる。

「オレはボールを受けてから仕事ができるタイプじゃない。勇介だったら自分の足元に収めてから行けますが、オレはそうじゃない。だからだれかと絡むんです」

 そうやって自分の良さを引き出してもらい、そしてチームメイトの良さを引き出す。そうする事でチームが回っていく事を理解しているのである。

 サイドバックというポジション柄、まずその関係を重視するポジションはボランチやセンターバックとなる。このヨコの連携さえしっかりしていればこのポジションから崩される事はそうはない。もちろん攻撃時にはタテ方向で連携すれば局面は打開できる。そうやって攻守にわたって考えをめぐらせる中、フロンターレが持つストロングポイントをどうやって活かせばいいのかの答えを村上は導いている。それが森との連携である。

「勇介の特徴はみんなが知っているタテへの突破力。だから勇介がボールを持った時点で、相手のディフェンスと1対1にさせてやれば勝ちだと思っているんです。ただ、相手もやられたくないからカバーが付く。だからその選手をどうはがすのかという事になる。一番手っ取り早いのが、オレから一発でサイドを変えるという事。だからボールを後ろでまわしてて、オレのところに来た時に顔を上げて一気に逆サイドに持っていくのが、勇介を生かす理想の形だとオレは思っています」

 そしてそうやって森に託したボールを究極的には、再びゴール前で受けたいのだという。

「3-5-2の時は勇介のクロスに対してオレが大裏から行くというのは常々言ってたんですよね。上げるところがなければ裏に落として。おれ絶対走るからって。今は両サイドバックだからちょっと距離があって難しいんですけどね。でも今でもオレはそれはしたいと思っています」

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ゴールとチームの勝利と

 強豪チームの一角として、対戦チームから「敬意」を受ける事が当たり前になったフロンターレにとって、相手が守備的に戦う事は、あらかじめ想定しておく必要のある戦術である。だからこそサイド攻撃を織り交ぜていかなければ相手の守備ブロックを崩すのは難しくなる。今季初めて守備的に戦う相手を下した6節の大宮戦のハーフタイムに村上は、関塚監督から攻撃についての指示を受けていたという。「勇介が行けるし行きたいんだろうし。行くのがチームにとってプラスだと思っていました。だけどセキさんに左サイドの回数が少ないと言われて」。その大宮戦に限らず、今季は前に行く場面が少ないと感じていたという村上は「せっかく勇介が突破してクロスをいれても、セカンドボールを相手に拾われていた事」がチームに悪影響を及ぼしていると感じており、関塚監督の言葉もあって後半は意識的に前に絡んで行ったという。その効果もあって、大宮戦は後半に逆転に成功。「あの大宮戦くらいに自分が前に絡んでいければ攻撃に関してはもっとバランスよくなると思っています」とイメージを膨らませていた。

 今でもゴールへの思いは消える事はないという村上は、不意に息子さんから「パパ、ゴールしないね」と言われ「切ない思い」をしているのだという。ただ、このチームに来て、ゴールへの思いについて心境の変化があったのも事実だという。「チームが優勝という目標を掲げている中で、じゃあ自分の役割は点を取ることかというとそうじゃない。奇麗事に聞こえるかもしれませんが、勝ち続けることのほうがいい。優勝した方が自分もうれしいし家族もうれしいし、チームもうれしいし、サポーターもうれしい」と、そんな考えが強くなったのだという。ただ、それでも今年は一本、ペナルティーエリアの外側からシュートを決めたいと決意を語っていた。引いてくる相手には、ミドルシュートはチーム戦術を考えても有効な攻撃であるのは間違いない。

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 J2のクラブから戦力外通告を受け、そしてタイトル争いの只中のフロンターレへ。それを「すばらしいギャップ」と表現した村上は、そんな自分自身の挑戦について「これでいいのかな」と自問した事もあったという。「こんなにすばらしい状況で。優勝目指してやれる事」に驚き、戸惑ったのだという。ただ、不安にだけはなる事はなかったという。とにかく楽しくて仕方なかったという。すばらしいギャップに身を置いた自分自身の境遇が。そして、自分自身が手を伸ばす事で掴めそうな可能性の大きさに。

 そんな村上はどうしてもこのチームで優勝したいという。

「マリノスの時に2000年のファーストステージで優勝しているんです。ただ、当時は18、19の2年目のときで、ケガして練習もやっていないような状況の中でまったく試合にも絡んでいない。そんな中でチームが優勝して、うれしい気持ちもあるんですが、ふと我に返ると喜べない自分がいたんです。だけどここのチームに来てオレが勝手に思っているだけかもしれないんですが、優勝したらみんなで喜べると思うんですよ、出ていない選手も。やったじゃんって、喜べるようなチームだと思うんですよ」

 取材の終盤。村上は問わず語りに「休みたくない」との思いを口にした。そして昨季、プロ入り後はじめてすべての公式戦でメンバー入りをしたのだと胸を張った。ただ、今季はすでに一度ベンチから外れる経験をしている。古傷のひざが原因だった。

8「今年は大宮戦の次の日に(ひざが痛くて)もうこれはだめだって思ったんです。あの時の失望感はなかったです。ただ、それが今は動けるようになってきた。それで(ACLグループリーグ4節の)マリナーズ戦前日の公式練習のときにできると言ったんです。だけど監督から連戦だからはずすと言われ、納得しました」

 人一倍チームに貢献したい選手であるがために、チームに貢献できない自分が許せなかった。ただ、そうして休む事がチームのためになる事も理解できた。だから、受け入れた。村上とはそういう男なのである。ケガの怖さを知っている選手だからこその強さなのだろうと思う。

 村上に優勝への思いを募らせるもう一つの理由がある。それがチームメイトへの思いである。

「フロンターレというチームはなくならない。ただ、このメンバーは毎年入れ替わってしまう。自分もこれまでに2回クビになっていますからね。だからなんかとにかく毎年毎年勝ちたいんです」

 ドゥンガの姿勢に共感する村上は、そんな言葉でタイトルへの思いを表現していた。一人一人がそれぞれの役割を全うする。そうすればチームは強くなる。そうやって同じ目標に向かって全力を傾けるチームメイトと勝利の美酒を味わいたい。そんな姿勢から村上のサッカーに対する純粋さを感じた。

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[むらかみ・かずひろ]

守備的なポジションならばどこでもこなせるユーティリティープレーヤー。昨シーズンは両ウイングバック、両サイドバック、ストッパーでプレーし、チームのピンチを救った。サイドから切れ込み放つ強烈なミドルシュートも魅力のひとつ。
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